2018/01/15
城:縄張から普請まで|加藤理文 織田信長の城・安土城 第2回 | 石垣の普請
日本城郭協会理事 加藤理文先生による「城:縄張から普請まで」をテーマにした講座、安土城編。織田信長による安土城の築城は、石垣を建物の基礎とする我が国初の難工事!?

天守台南面石垣。自然石同士の隙間に間詰めが丁寧に詰められている
1.千~3千人で石を運ぶ
安土城普請は、石垣と天主築造を第一にすることが信長の厳命であった。石垣を建物の基礎とする我が国初の難工事が開始された。石垣石材の大半は、安土山で産出する湖東流紋岩が使用されている。全体の9割強が「野面積」と呼ばれる自然の石を積み上げた石垣で、石材同士の隙間には、小型の自然石を利用し、丁寧に間詰めされた。『信長公記』には「安土山の大石で、石垣を築き始めた」、「観音寺山・長命寺山・長光寺山(近江八幡市)・伊庭山(東近江市)など、諸所の大石を引き下ろし、これを千人とか2千人、あるいは3千人がかりで安土山に引き上げた」と記録される。重要な箇所に、見せるための巨石を配置する箇所も見られる他、石仏などの転用石も使用されているのが特徴だ。

長方形であったためか、石段に使用された石仏
2.様々な石工によって積まれた石垣
近江には寺社勢力と結びついた在地の石工集団が居たことは確実で、金剛輪寺の寺普請を担当したとされる「西座衆」が文献記録に残る。安土城以前に積まれた観音寺城の石垣は、この石工集団が関与した可能性が高い。だが、小谷城や鎌刃城には、異なる石垣が残り、別の石工集団の存在も推定されている。信長自身も、小牧山城、岐阜城で巨石を積み上げた石垣と、岐阜城山上部のように階段状に積み上げた二種類の石垣を使用していた。

大手東側上段郭南面石垣。立石を並べ、その間に石を積んだ特異な積み方の石垣
安土城の石垣を詳細に見ると、あまりにバリエーションが多く、同一石工集団が積んだとは決して思えない。様々な石工集団が、最低限の要求を満たして積んだがために、全体的なバランスとして見た場合、統一がとれているように見えるだけなのだ。石工集団は数が少ないため、各国から招聘されたのであろう。安土城の石垣が、それまでの石垣と決定的に異なるのは、石垣上に構築物が築かれることを前提として積まれていることに尽きる。そのため、構築物さえ築けるならば、その形状は問わなかったとしか思えない。主要部については、そこに高さを求めたのである。

伝黒鉄門北面石垣。主要部正面となるため、巨石が用いられている
3.最大の技術革新
従来、安土城の石垣は「穴太衆(あのうしゅう)」が積んだと言われてきたが、観音寺城と同様の石垣は存在せず、矢穴も認められない。また、鎌刃城と同様の石垣も見ることは出来ない。小牧山城、岐阜城の巨石石垣も安土には存在しない。こうした技術をもつ工人集団が徴用されなかったのか、あるいは新たな積み方を支持されたがために、その特徴が見えないのかははっきりしない。

伝二の丸、南西隅と南面。隅角には、比較的大振りの石材が使用されている
だが、安土城を完成させた最大の技術革新は、本格的な石垣の築造であった。従来の石垣は、あくまで土留めが主目的で、石垣上に建物が建つことは想定されていない。安土築造で、初めて石垣の天端いっぱいに建つ建物が出現したのである。その技術を可能にしたのが、様々な技術を持った石工集団を統一的に再編成し、そこに新たな規格を持たせた石垣構築を命じたことである。この後試行錯誤を繰り返しつつ、安土城の石垣が進化し近世城郭へと受け継がれていくことになる。人々は、日一日と、安土山が石垣に覆われていく姿を目の当たりにし、信長によって時代が大きく変わっていくことを実感したことであろう。
<コラム>「蛇石」の行方は
安土城に使用された最も有名な石は、「蛇石(じゃいし[へびいし])」と呼ばれる巨石で、羽柴秀吉・滝川一益・丹羽長秀配下の1万余人で、やっと山上に引き上げたと記録される。三日三晩「昼夜山も谷も動くばかりに候」と『信長公記』には記されている。だが、この「蛇石」は、現在城内のどこにも見られない。表面に見られないということは、どこかの基礎に使用され埋まってしまったということになろうか。最重要部の天主の基礎としたことが、最も妥当ではあるが、理化学的検査で否定された。残るは、本丸御殿(現信長廟のある曲輪)の下ということになるが、未だその行方は杳として判明していない。

伝二の丸下に残る巨石
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公益財団法人日本城郭協会 理事、学術委員会副委員長
NPO法人城郭遺産による街づくり協議会監事
1958年 静岡県浜松市生まれ
1981年 駒澤大学文学部歴史学科卒業
2011年 広島大学にて学位(博士(文学))取得
(財)静岡県埋蔵文化財調査研究所、静岡県教育委員会文化課を経て、現在袋井市立浅羽中学校教諭
著書 『織豊権力と城郭-瓦と石垣の考古学-』高志書院 2012年
『江戸城を極める』サンライズ出版 2014年
『織田信長の城』講談社現代新書 2016年
『静岡県の歩ける城70選』静岡新聞社 2016年
『日本から城が消える』洋泉社歴史新書 2016年 等多数









