隠れたお城を見つけ出せ! 大分県で一番お城があることを発見した中津市のお話

身近にお城があったと分かったらわくわくしませんか? いつも通る坂は、実はお城の堀切や土塁だったかもしれません。「もしかして?」と思って調べてみるのも、お城の楽しみ方の一つです。今回、中津市教育委員会の浦井さんが、中津市が行った「お城探し」の方法を伝授してくださいました。浦井さんたちは、この方法でなんとこれまでの倍以上ものお城を発見したのです! はたしてそれはどんな方法なのでしょうか。

こんにちは。中津市教育委員会の浦井です。突然ですが、皆さまの身近にお城はありますか? お城は観光地にあるものだから、うちの地元には縁がないかな…と思っている方も多いのではないでしょうか。でも、ちょっと待ってください。かつてお城は日本に数万もあったともいわれます。気が付かないだけで、お城の見つけ方さえわかれば、あなたの町にもお城が姿を現すかもしれません! 

というのも、実は、私が勤める大分県中津市で平成25年(2013)から令和3年(2021)まで、9年をかけて市内の中世城館確認調査を行ったところ、いくつものお城が見つかり、それまで62カ所だったお城の数が145カ所にまで増えたんです! 今回は中津市教育委員会が行った調査を例に、「お城の探し方」について、ご紹介します。

どうして調査をしたの?

大分県の最北にある中津市は、県教委の城館調査によりお城が密集する地域として知られていました。県の調査でわかっていたお城の数は62カ所。ただ、なかには所在がわからないとされたお城も多かったことや残念ながら城跡が開発されてしまう出来事が起きたため、改めて中津のお城について詳細に調べることにしました。

お城は市内のどこにある?さあ、お城を探そう!

所在がわからないお城を探す…それには、いったいどういった手順を踏んだのか、私たちのやり方をここで段階ごとにご紹介します。

まずは、入手できる資料で下調べ

①過去の研究をチェック

まずは、中津にどれくらいの数のお城があるのか確認することからスタートします。対象は大分県教委が行った城館調査報告書(県調査)、市町村誌、城郭研究者の研究など。この時点で県の調査報告書に載っていないお城があることなどが判明!

②お城(城館)にゆかりのありそうな地名を調査

中津市歴史博物館,城びと
大字永添地区の小字図。「城屋敷」「長者屋敷」周辺の地点に城館が所在している

次に行ったのが地名を調べる「小字(こあざ)調査」です。土地には江戸時代の村が明治時代に合併してできた「大字(おおあざ)」と、その下に「しこ名」という地域呼称地名がありますが、小字はそのしこ名を統合してできたものとされています。お城(城館)が存在する可能性が高いところには、「城山」「古城」「屋形(館)」などの地名が残ることがあります。幸い中津には地図上に字名・字境がプロットされた資料が存在していたため、その中にお城に関連した用語がないか、城館関連小字の探索を行いました。その結果、可能性のあるところは約50か所に! その数の多さに、調査委員の先生方からも驚きの声があがりました。

③地籍図に色をつけて遺構を探す

中津市歴史博物館,城びと
大字福島地区の地籍図。色を付けると長久寺や妙相寺周辺を山の地目(茶色)や堀(水色)が方形に取り巻いていることがわかる

次は、明治21年(1888)に調整された地籍図というものをお城調査に利用しました。地籍図とは、その時点での土地の使い方が記された図面で、現在市町村役場の税務課などが管理する、近世および中世の土地利用を考える上で貴重な資料です。山の地目は茶色、水路は水色…というように地目(ちもく。土地の利用目的)別に色分けを行うと、山の地目が方形に巡る箇所やそれに沿うような水路の存在などが浮かび上がります。このような箇所については、中世に有力者の館の周囲を巡る土塁・堀が存在した可能性があり、現在も遺構の一部が残っているケースがあります。地籍図に色を付けることで小字には表れないお城(城館)を探すことができるのです。旧中津市域や旧三光村は平地・台地が開けており、平地城館の確認に地籍図は大いに役立ちました。

④地元の方に聞き取り調査

中津市歴史博物館,城びと
聞き取り調査により「鬼面城」というお城があることがわかった山。堀切2条で主郭を守る城が見つかった

次に行ったのが聞き取り調査。地元には代々伝承されている城館情報があります。「あそこの山はじいさんが城跡といっていた」という感じです。それらのお城情報を教えてもらうため、老人クラブの会合へ出席し聞き取りを行いました。この調査により実は家の裏に堀がある(あった)など小字や地籍図ではわからない未知のお城に出会うこともできます。また、地域の歴史を考える上で貴重なしこ名情報、屋号の情報を得ることもできます。

いよいよ現地へ行ってみる!

⑤遺構の有無をチェックする現地調査

中津市歴史博物館,城びと
岡崎城(中津市三光)長さ100mの横堀と土塁を確認

①~④の調査を踏まえ、いよいよお城の可能性のある候補地で、現地の確認を行います。持っていくものは、カメラ・地図・GPSなど。候補地が山の場合、山頂部を中心に、基本的に半径500mの範囲を確認するようにしました。平野部の場合、色分け図によりある程度その範囲が限定されるため、そこを重点的に確認します。
ところが、地名を頼りにいざ山に分け入ってみても、遺構は全くない…ということもしばしば。地名=城の存在を示すわけではない、空振りの方が多いという状況でした。逆に未知のお城と遭遇したときの感動はひとしおです。遺構を確認した際は写真を複数枚とり、簡易的にお城の構造をメモすれば下山。中津市ではこの現地踏査(確認)作業に約5年間を費やし、多くのお城の発見につながりました。

⑥縄張り図の作成

中津市歴史博物館,城びと
縄張り図作成調査風景。3人で作図中。測量機器がそろえば1人でも作業可能。遺構の見落としがないように注意する

⑤で確認した遺構について、スケジュールを立てて縄張り図の作成を行います。縄張り図とは、そのお城にどんな遺構があって、どこに造られているのか理解するために作成される簡易測量図のことです。山に入る時期はハチやマダニ・ヘビなどが少ない11月~5月としました。縮尺1/1000の地形図・定規・がばん・レーザー距離計・方位磁石・GPS・カメラなどは必携の道具です。大きなお城なら3日、小さいお城なら半日かけて図化していきます。
事前踏査の時のメモと実際に縄張り図を描いた後ではお城の印象が全く異なります。作図することにより築城者の意図がはっきりわかることがあります。築城者と時代を超えて繋がる不思議な瞬間です。

⑦報告書を作成

中津市歴史博物館,城びと
長岩城縄張り図のトレース(墨入れ)図。現地の状況を思い描きながらの追体験作業となる。筆者は手トレ派だが、デジタルトレースを行う人もいる

作成した縄張り図は、描写誤りのチェックや補正後、トレース作業を実施します。報告書にはその図面と解説を同じページに掲載。できるだけ写真も多く取り入れるなどの工夫を行いました。

62ヵ所が145ヵ所!驚きの調査結果に

調査の結果、推定地も含めて市内に145カ所の城館跡が存在することが分かり、中津市の中近世城館の数は大分県一であることがわかりました。
中津にお城(城館)が多い理由は、ここが豊前・豊後の境目の地であり、大友氏や大内氏などの守護大名の係争地であったことが主な理由と思われます。しかし、今回の調査では残念ながら見つかっていないお城も存在します。引き続きそれらのお城の調査を行っていきたいと思っています。

あなたの町の山の中にも人知れずお城は眠っているかもしれません。お城はきっとあなたが発見してくれることを待っています。

※中津市歴史博物館では城館調査成果を報告する展示会「土豪の城-豊前武士と戦国動乱-」(9月23日~11月6日)を開催します。中津市の中近世城館報告書の「文献資料編」・「各説・総括編」は中津市歴史博物館にて販売(通販可)しております。詳しくは中津市歴史博物館のHPをご覧ください。

執筆・画像/中津市歴史博物館 浦井直幸

<お城情報WEBメディア 城びと>

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