承久の乱から800年「新御番鍛冶プロジェクト」始動!後鳥羽院ゆかりの隠岐の挑戦

本日は12月21日。「1221」といえば今から800年前の1221年、鎌倉幕府と京都の朝廷が争った承久の乱が起きました。この争いに敗れた後鳥羽院(後鳥羽上皇)は隠岐に流されますが、隠岐に都の文化を伝え、現在も「ごとばんさん」とよばれ親しまれています。承久の乱から800年を記念して、かつて後鳥羽院が始めたといわれる「御番鍛冶(ごばんかじ)」を現代によみがえらせる「新御番鍛冶プロジェクト」が今年の10月16日に始動しました。「新御番鍛冶」とはいったい何か?隠岐のお城とあわせてご紹介します!

■「新御番鍛冶プロジェクト」とは?

承久3年(1221)から800年という記念すべき令和3年(2021)、後鳥羽院と育んだ隠岐の文化を継承してゆくために、記念行事 「後鳥羽院遷幸八百年顕彰事業」 が企画されました。その中の一つが隠岐神社をはじめ後鳥羽院とのゆかりが深い海士町(あまちょう)の「御番鍛冶(ごばんかじ)プロジェクト」です。後鳥羽院の「御番鍛冶」の伝承を令和の世によみがえらせるために立ち上げられました。

「御番鍛冶(ごばんかじ)」とは、自身で作刀するほど日本刀に強い想いを抱いていた後鳥羽院が、全国から選りすぐりの刀鍛冶を集め、12名の刀工にひと月ごとに鍛刀(刀を製造すること)させたという制度です。

「御番鍛冶」は、昭和時代、後鳥羽院を祀るために隠岐神社が創建されたときにも一度よみがえっています。10名の「昭和の刀匠」が集められ、御番鍛冶による 10 振の刀が奉納されました。現在、その10 振の刀は後鳥羽院資料館に展示されています。

■因屋城は後鳥羽院を世話した村上氏の居城

島根半島の北方沖合に位置し、大小200近い島々から成る隠岐諸島。隠岐と言えば古くから流刑地として知られ、鎌倉時代前期には承久の乱で敗れた後鳥羽院(後鳥羽上皇は流刑の前に出家し、後鳥羽院となった)が、鎌倉時代末期には鎌倉幕府打倒に立ち上がった後醍醐天皇が配流されました。
 
新御番鍛冶プロジェクト,後鳥羽院
隠岐(島根県海士町)

あまりお城があるイメージはないかもしれませんが、実は隠岐には山城跡や居館跡が残っており、その代表格が隠岐諸島の南西部、現在の海士町にある因屋(いんや)城です。因屋城は海(諏訪湾)を望む標高約20mの低丘陵の突端に位置し、尾根上に加工された曲輪や、堀切が遺構として見られます。因屋城を居城とした村上氏は有力豪族であり、後鳥羽院が隠岐に流された際、世話役を務めたとされています。 

その後の戦国時代、山陰地方では毛利氏と尼子氏が争いました。当時の隠岐は尼子氏の勢力下にありましたが、村上氏は毛利方につきました。尼子氏についたとみられる海賊が因屋城を攻め、村上氏が籠城して迎え撃ったとされています。この功績によって、毛利方の小早川隆景から感謝の書状が送られています。
隠岐には、島の歴史の重要なポジションを占める村上氏の資料を展示する資料館があります。
 
新御番鍛冶プロジェクト,後鳥羽院
村上氏の旧家の家屋を展示館とした村上家資料館

その村上家資料館の近くに後鳥羽院崩御700年目の昭和14年(1939)に創建されたのが隠岐神社で、後鳥羽院を祀っています。
 
新御番鍛冶プロジェクト,後鳥羽院
隠岐神社の社殿。隠岐特有の「隠岐造り」が特徴

隠岐神社の敷地内には、後鳥羽院の御遺灰が残る後鳥羽院火葬塚があります。かつてはここに社があり、島民が集まっていたと言い伝えられています。
 
新御番鍛冶プロジェクト,後鳥羽院
後鳥羽院を火葬した場所と伝わる後鳥羽院火葬塚

■後鳥羽院とはどんな人?

後鳥羽院は治承4 年(1180)に生まれ、兄の安徳天皇が源平の争いによって平家ともに都落ちしたため、4 歳で天皇に即位しました。その後、建久9年(1198)のときに譲位し、上皇として力を発揮します。

和歌や武芸に秀でており、和歌については、藤原定家らに命じ、勅撰『新古今和歌集』を編纂させたことが知られています。また、前述した御番鍛冶の制度を確立させるなど、日本刀に対しても並々ならない情熱をそそぎました。そのほか茶道、相撲など様々な分野の芸術、武術を尊重し、才能のある職人を庇護したと伝えられています。

 
新御番鍛冶プロジェクト,後鳥羽院
自ら作刀するほど刀に深い関心のあった後鳥羽院

このように文武に秀でた後鳥羽院は、政治にも強い関心があり、鎌倉幕府による武家政権から、政治の実権を朝廷に取り戻そうとします。承久3 年(1221)5月、後鳥羽院(当時は後鳥羽上皇)は挙兵しました(承久の乱)が、鎌倉幕府の圧倒的な兵力に敗れました。その後、隠岐への配流が決まり、出家して住み慣れた京都から離れました。

隠岐に流された後鳥羽院は積極的に島民の中に入っていったと言われており、島民は今日でも「ごとばんさん」と呼ぶほど、後鳥羽院に親しみを抱いています。後鳥羽院は『遠島御百首』、『遠島歌合』など多くの和歌を遺すなど文化的生活を保ち続け、島民と後鳥羽院との交流は芸能や食文化など様々な形で隠岐に残されています。

■御番鍛冶をよみがえらせるプロジェクトが始動

今回、刀剣研究家のポール・マーティン氏による発案で「新御番鍛冶プロジェクト」が始まりました。マーティン氏はイギリス出身で、元は日本の刀剣や甲冑の専門学芸員として大英博物館で勤務した人物です。
 
新御番鍛冶プロジェクト,後鳥羽院
ポール・マーティン氏。イギリス出身。現在は公益財団法人 日本刀文化振興協会の評議員を務める

このプロジェクトは、後鳥羽院による御番鍛冶の制度にならい、後⿃⽻院が愛した⼑剣⽂化を再興することを目指します。今後、12名の「現代の刀匠」を任命し「新御番鍛冶」を組織していく予定です。新御番鍛冶代表の月山貞利氏から始まる刀匠12名が一振ずつ刀を奉納し、最終的に御番鍛冶の伝承に沿って12振の奉納刀を揃えるのがプロジェクトの目標で、国内外で注目を集めています。月山貞利氏は高松宮賞、文化庁長官賞、寒山賞など数々の賞を受賞しており、寺社の御神刀や横綱土俵入りの太刀、ボストン美術館などからも刀剣が所望されるなど国内外で活躍しています。

令和3年(2021)10月16日(土)、プロジェクトの皮切りとして「後鳥羽院遷幸800年記念大祭」が隠岐神社でおこなわれました。月山氏が神前鍛錬を務めた大祭の模様は後鳥羽院顕彰事業実行委員会のYouTubeチャンネルで生配信されました(https://www.youtube.com/watch?v=VmeApq6Yutg)。
 
新御番鍛冶プロジェクト,後鳥羽院
後鳥羽院遷幸800年記念大祭。神前鍛錬を務める月山貞利氏

プロジェクトのご担当者に、プロジェクトにかける想いを伺いました。

本プロジェクトはこれまでの刀剣文化、これからの刀剣文化をつなげ、担うためのプロジェクトです。
私たちは今、800年前からのバトンを受け継ぎ、次の800年への第一歩を記そうとする、壮大なプロジェクトのスタート地点に立っています。
後鳥羽院の名の下に刀匠と島民の間に育まれる絆を通して、日本の刀剣の文化が次の世代に、そして世界に向けても継承されてゆく機会となることを私たちは目指します。
世界中の刀剣ファンの方々が島を訪れ、ともに後鳥羽院の御前で日本の刀剣について語り合える、その語り合いを通して文化の種が育まれる隠岐となるように、私たちはこの活動を続けていきたいと思っています。

■現代版の「勧進」で想いを広げる

⽇本⽂化の継承⽅法に新しいスタイルを確⽴してゆくことを目的に、「新御番鍛冶プロジェクト」にかかる費用はクラウドファンディングで広く集めています。
 
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クラウドファンディング(crowdfunding)とは、群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語です。不特定多数の人から資金を募り何かを実現させる手法で、寺院や仏像などを造営したり、修復したりするために寄付を集めた「勧進」が似た例です。資金調達をしながら、プロジェクトの内容を知ってもらったり、想いを広げていったりできます。

クラウドファンディングは、寄附する代わりにお返し(リターン)が得られるのも特徴です。今回の新御番鍛冶プロジェクトでは、記念短刀や奉納式来賓参列資格など、刀剣ファン、歴史ファンにはたまらない特別なリターンが用意されています。

一振目分の目標金額はすでに集まっており、新御番鍛冶プロジェクトに対する期待の高まりがひしひしと伝わってきます。クラウドファンディングは最終日である令和4年(2022)1月22日まで受け付けています。この勢いに乗って更なる共感者を集め、最終的に12振りの刀を奉納できるよう、以降の資金調達について方法を検討・準備中だそうです。

新御番鍛冶プロジェクト,後鳥羽院
リターンの一例。奉納刀とともに作製された短刀

クラウドファンディングの詳細はコチラを参照

後鳥羽院遷幸八百年記念文化祭の詳細はコチラを参照

承久の乱から800年という節目を味わいながら、隠岐や後鳥羽院の歴史にふれられる貴重な機会を楽しんでみてはいかがでしょうか。

執筆/藪内成基(やぶうちしげき) 
国内・海外で年間100以上の城を訪ね、「城と旅」をテーマに執筆・撮影。著書『講談社ポケット百科シリーズ 日本の城200』(講談社、2021)。『地図で旅する! 日本の名城』(JTBパブリッシング)や『1日1ページ、読むだけで身につく日本の教養365歴史編』(文響社)などで執筆。城めぐりツアー(クラブツーリズム)の監修・ガイドを務める。

画像提供/新御番鍛治プロジェクト

※歴史的事実や城郭情報などは、各市町村など、自治体や城郭が発信している情報(パンフレット、自治体のWEBサイト等)を参考にしています

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