明智光秀とその周辺|小和田哲男 第8回 内藤氏との戦いと内藤氏家臣団

本能寺の変で織田信長を討った武将として知られ、2020年・2021年放送のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』では主人公として描かれた明智光秀。連載講座「明智光秀とその周辺」では、ドラマの時代考証を担当される小和田哲男先生が、光秀の生涯に影響を与えた人々や出来事に全12回でスポットライトを当てていきます。第8回は「亀山城の戦い」がテーマ。丹波攻めに苦戦した光秀が、新たな攻略拠点となる亀山城を築くために行った戦いの全貌に迫ります。(※2020年11月25日初回公開)

「明智光秀とその周辺|小和田哲男」

丹波守護代内藤氏を討つ

光秀は天正3年(1575)6月の時点で信長から丹波攻めの大将を命じられたが、本連載の前回のところでみたように8月には越前攻めに向かっており、実際に動き出すのは少しあとのことになる。

『信長公記』に、越前平定後の9月2日に柴田勝家が越前8郡を与えられたとあるのに続けて、「惟任日向守直に丹波へ相働くべきの旨に候」とある。そして同年11月に入り、光秀は兵を率いて但馬の竹田から丹波の氷上郡に攻め入り、荻野直正(赤井悪右衛門)の拠る黒井城(兵庫県丹波市春日町)を攻めはじめている。このあと黒井城攻めがもう一度あるので、このときの戦いを第一次黒井城の戦いとよんでいる。

この戦いのとき、丹波国多紀郡八上城(兵庫県丹波篠山市八上)の城主波多野秀治が光秀軍に加わってきたが、翌4年(1576)正月15日、その波多野秀治が突然裏切り、城攻めは失敗に終わっている。光秀は坂本城(滋賀県大津市)に逃げもどるしかなかった。ふつうならば、大失態なので、怒った信長が丹波攻めの大将を別な武将に代えるところであるが、そのまま光秀が丹波攻めを継続することになった。

そこで光秀が考えたのは、丹波に足がかりの城を築くことであった。選ばれたのが、のちに亀山城 (京都府亀岡市荒塚町)を築く場所である。そこではじまったのが亀山城の戦いというわけであるが、亀山城という城名は光秀が城を築いてからそうよばれるようになったので、厳密には亀山城の戦いというのは正しくない。亀山城の前身となる内藤氏の城であるが、城名は伝わらない。

亀山城
丹波から一時撤退した後に光秀が築いた亀山城址

内藤氏は丹波守護代だったが、内藤定政が没し、幼い子が跡を継いだばかりということで、光秀も攻撃目標にしたのではないかと思われる。実際、内藤軍の指揮を執っていたのは安村次郎右衛門という家老だった。

近世細川氏の家記である『綿考輯録』(別名『細川家記』)によると、光秀は細川藤孝・忠興父子とともに亀山城の前身というべき城を攻めたという。攻防は三日三晩続いたというが、のちに光秀によって拡張整備された亀山城ならまだしも、その前身の城なので小規模だったはずで、三日三晩の攻防というのは疑問である。

もしかしたら、亀山城の前身の城は、内藤氏の本拠八木城(京都府南丹市八木町)の支城で、三日三晩の攻防というのは本城の八木城の攻防戦だったのかもしれない。

丹波攻略の前進基地としての亀山城

なお、この戦いで、結局、光秀の猛攻に耐えかね、安村次郎右衛門が降伏を申し出てきたので、大手口を攻めていた光秀はそれを承知し、ただちに城攻めを中止させた。ところが、搦手口を担当していた若い忠興は、「落城間際の降伏は認められない」と、攻撃を続行しようとした。それをみた光秀は、「そうした行動は慎むように」と忠興に注意している。

光秀が黒井城攻めの失敗のあと、再度丹波経略に出たのが天正5年(1577)10月16日であるが、光秀の発給文書にはその年正月から亀山城の普請を命じているものがあり、はじめのうち軍事拠点としていた余部(あまるべ)城 (京都府亀岡市余部町)から南東約1・2キロメートルの亀山城のところに新規に築城を開始していたことがわかる。内藤氏を降伏させたあと、本格的な築城工事が進められたのであろう。このあと、亀山城が光秀による丹波経略の前進基地となるのである。

余部城
もともと光秀が丹波の軍事拠点としていた余部城(丸岡城)址 

そしてもう一つ、内藤氏を降伏させたことで、光秀は内藤氏の家臣団を自分の家臣団に組み込んでいるのである。並河(なみかわ)掃部(かもん)・四王天(しおうてん)但馬守・荻野彦兵衛・中沢豊後守・波々伯部(ほうかべ)権頭・尾石与三・酒井孫左衛門・加治石見守といった錚錚たるメンバーで、光秀を最後まで支えることになる。

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執筆/小和田哲男(おわだてつお)
公益財団法人日本城郭協会  理事長
日本中世史、特に戦国時代史研究の第一人者として知られる。1944年生。静岡市出身。1972年、早稲田大学大学院文学研究科 博士課程修了。静岡大学教育学部専任講師、教授などを経て、同大学名誉教授。
著書 『戦国武将の手紙を読む 浮かびあがる人間模様』(中央公論新社、2010)
   『明智光秀・秀満』(ミネルヴァ書房、2019)ほか多
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