2019/05/15
訪城数日本一の夫婦ウモ&ちえぞーに聞く城旅のコツ ⑤安全に楽しむために知りたい山城のキケン
夫婦二人で6000近くの城を訪れているウモ&ちえぞーさんが、城めぐりの計画の立て方や山城の歩き方などをレクチャーする「ウモ&ちえぞー!に聞く城旅のコツ」。第5回は、山城のキケンについて紹介。安全に楽しむために知っておきたい情報です。
安全な城めぐりのために
近年のブームでお城ファンが増えてくれることは喜ばしいことだが、反面事故や怪我、トラブルなども増えている。そもそも城とは戦うための施設であり、少なからず危険はある。まして山城は文字通り山であり、わずか比高100mにも満たないような里山でも大きな事故につながりかねない。ここでは自分の経験などを踏まえて、改めて城、とくに山城を歩くことの危険性と、安全に城歩きを楽しむための方法をお話ししたい。
【転落・滑落】
山城の場合、主な遺構は尾根上に作られていることが多い。山城を歩いたことがある人はある程度分かると思うが、尾根の上というのは意外と歩きやすい。もちろん狭い尾根や岩場など危険もあるが、多くの場合は尾根が一番安全である。
最も危険なのは山腹を横切るトラバース。これは傾斜の急な山腹を歩くため、滑ったりバランスを崩したりして転落・滑落に繋がりやすい。私もこれで斜面をズリ落ちてしまって怖い経験をしたことがある。山で急斜面を進む際には足元をよく確認し、可能であれば周囲の木を掴みながら移動する、手を使って三点支持で進む等の工夫が必要だ。
斜面が急な上に岩が向き出しになっている登城道。山城はその名の通り、山の上にあるため、急坂が多い。登る際は、手や杖を使うなどの安全策を講じよう
【転倒による怪我】
これも山では多い事故である。転んだ拍子に足を痛めたり、頭を強く打って脳震盪を起こすこともある。骨折したりすると自力で戻ることは困難だ。手をついた拍子にとがった岩などで手を切ってしまうこともある。山では転んでしまうことを100%避けるのは難しいが、転ぶ際にダメージを受けにくい体勢、無理のない体勢で転ぶことも身に着けておくべきテクニックだ。
そしてこれが重要なのだが、転倒事故の大半は下山時に起きる。「下山は楽」と思うのは大間違い、下山時こそ最も転倒や怪我に注意が必要だ。速足を避け、小さな歩幅でゆっくり進む、足場の悪い急斜面では前体重を避け、横向きや後ろ向きになって降りる等の方法がある。
堀や堀切も急斜面なので、転倒には注意しなければならない。そもそも、堀などは遺構保護のため立入が禁止されている場合もある。立入禁止の札がある場所には入らないようにしよう
【道迷い】
これも山では多いトラブルであり、最も危険な事故になる場合がある。実は登りではあまり迷うことはない。大概の山城は上へ登りさえすればたどり着くからだ。ところが下山は難しい。道迷いの大半は下山時に起こるものだ。
ここでも「下山は楽」というのは大間違いだと声を大にして伝えたい。これは登りの際には気付かなかったような紛らわしい山道や小さな尾根に迷い込むことで生じる。下りは尾根や道を間違えやすく、帰れない場所に出てしまったり、迷っているうちに日が暮れたりする恐れがある。そうなってしまったらもはや遭難である。
ヤブが酷い場合も危険だ。とくに背丈を越える笹薮の場合などは、体に草木が絡まって身動きが取れなくなるし、方角が分からなくなったり、分かっても正しい方向に進めないこともある。パニックに陥ってしまうとより一層危険だ。隅々まで見たい気持ちもわかるが、ヤブ漕ぎはほどほどにした方がよい。
ヤブにおおわれた横堀。深く生い茂ったヤブの中では草で手足を切ってしまうこともあるし、毒を持った虫が潜んでいることもある。あまり深入りしないのがオススメだ
山で道を間違えたときの鉄則は、元の場所に引き返すこと、尾根の上に出ることである。強引に山を下りてしまうと、急斜面や崖に出てしまったり、登り口に引き返せない場所に迷い込んだり、せっかく山麓まで来ても川や獣害除けの柵に阻まれて先に進めないケースなどもある。
とくに崖、沢などは絶対降りてはならない。とにかく少しでもおかしいと思ったら即座に引き返し、尾根に戻る勇気が必要である。強引に降りるのは最も危険な行為だし、とくに沢下りはそれで命を落とす人が多いことからも分かる通り、非常に危険である。
山で道に迷わないためには、今の時代ならスマホのGPSアプリなどを活用すべきだろう。紙の地図・地形図も役に立つが、現在地を読み違えると役に立たない。確実に現在地が分かり、周囲の地形もわかるものとしてはやはりGPSアプリが最適だろう。ただしスマホは電池が切れればおしまいだから、念のためモバイルバッテリー等は持ち歩こう。
【危険動物】
山中の危険な生き物の筆頭としては熊がいるが、ツキノワグマは本来臆病かつ知能が高いため、人の気配を察知すれば向こうから逃げてくれることが多い。そのため熊対策で重要なのは、ラジオ、クマベルなどの鳴り物で人間の存在に気付かせることである。私は最悪の場合に備えて熊対策スプレーなども持ち歩いているが、これは噴射すると自分も相当なダメージを受けるので、最後の手段である。
熊などの野生動物は鈴などの鳴り物で存在を知らせるのが、有効だが過信をしてはいけない。事前に対応策を調べ、できるだけの準備をするようにしよう
その他の動物としては猪、猿などがいる。特に猿は知能が高いうえに大規模な群れで行動することがあり、相手が弱いと分かれば向こうから攻撃を仕掛けてくる。家内は過去に猿の大群に囲まれて威嚇され、非常に怖い思いをしたという。
命に係わる危険な昆虫としてはスズメバチがいる。威嚇されたり通り道に巣を作られたりした場合は有無を言わせず即撤収である。その他の危険生物としては山ダニ、ヤマビル、チャドクガなどがいる。これらの対策はネットなどで調べればある程度分かると思う。知識を持っているだけでも相当違うと思うので、ぜひ調べてみてほしい。
【熱中症・脱水症】
これも恐ろしいトラブルである。とくに夏場の山城などでは命に係わるほどの危険がある。私は過去、真夏の山城で日影の全くない登山道を延々と歩いた末に持っていた水も飲み切ってしまい、脱水症状に陥ったことがある。こうなってしまうとわずか数歩歩くことも困難になり、下山するのも難しくなる。酷い場合は幻覚が見えたり錯乱状態に陥る場合もある。
そもそも夏に山城へ行くこと自体おすすめはしないが、行く場合には直射日光対策を万全にしたうえで、多すぎるくらいの飲料水を持って歩くことが重要である。
夏の山城は、熱中症、深いヤブ、毒虫……など危険が多い。山城を歩きなれていない人は、夏は整備が整った近世城郭に行くのも一つの手だ
【まとめ】
「山は自力で登って自力で下りる」「城は戻ってきてはじめて一城攻略」というのは鉄則中の鉄則である。自分の体力や技量、天候、地形などを総合的に判断し、少しでも無理だと思ったら行かない勇気、撤退する勇気も大切だ。何より、城というのは少なからず危険な場所にあること、そして人間は簡単に怪我をしたり命を落としたりするものだ、ということを忘れてはならない。
また、自分ひとりの問題ではなく、怪我や遭難によって、その城が立ち入り禁止や見学に制限がつくこともある。他のファンに迷惑をかけないためにも事故を起こさないような心掛けが必要だ。
お城好きの中には何百城、何千城と行っているベテランもいるが、こうした人たちは決して無茶をしているのではない。毎回自力で登って自力で帰ってくるという、当り前のことができている人たちである。無理にベテランの真似をする必要は全くないが、そのリスクマネジメント力は見習っていただきたいところである。
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執筆・写真/ウモ
新潟県出身。Webサイト「埋もれた古城」管理人。城めぐりを趣味としており、ちえぞーさんと一緒に年間約500城(再訪含む)をめぐり、これまでに約6000城に訪城している。主な執筆協力に『図説 茨城の城郭』(国書刊行会)、『廃城をゆく』シリーズ(イカロス出版)、『完全詳解 山城ガイド』(学研)など。