2018/07/20
城に眠る伝説と謎 第7夜 【松江城】歴代城主を苦しめたのは美しき娘の呪い!?
全国の城に残る伝説や謎を追いその真相に迫る「城に眠る伝説と謎」。今回取り上げるのは松江城の人柱伝説。城の完成後、相次いで城主が亡くなり、城下で夏の風物詩が中止となったのは、盆踊りの最中にさらわれ生き埋めとなった娘の呪いだった!? 国宝天守の城にまつわる悲しい伝説をご紹介。
2015年に天守が国宝指定された松江城。その築城には悲しい怪談が隠されている
松江城下では、江戸時代から盆踊りをやらない習慣があった!?
国宝・松江城の城下町、島根県松江市には、ちょっと興味深い話がある。日本の夏の風物詩である盆踊りが、市内の一部では“ある事情”により、行われていないというのだ。そしてその“事情”、江戸時代の築城時にあったとされる聞くも悲しい出来事が関係しているのだ。一体どんな“事情”があったのか…?
人柱にされた娘の呪いが歴代城主を苦しめた!?
慶長16年(1611)に堀尾吉晴が築いた松江城は築城の際、本丸や天守台の石垣工事が難航していたという。そこで工事の成功を祈願して人柱を立てることになった。折しも盆踊りの時季でもあり、吉晴の家臣たちは「盆踊りで一番踊りがうまく、美しい娘を連れてきて人柱にしよう」と相談し、何の罪もない城下の若い娘をいきなりさらってきて、生きたまま人柱にしてしまった。
犠牲になった娘の無念はいかばかりか。石垣の下に生き埋めにされた娘の怨みは呪いとなって、この城の城主たちを苦しめはじめる。まず吉晴とその子・忠氏。二人は城の完成前後に相次いで死去してしまう。3代目の忠晴も跡継ぎがいないまま早逝してしまい、堀尾家は断絶の憂き目に。続いて城主になった京極忠高もわずか3年後に急逝し、こちらもわずか1代であっけなくお家断絶となった。
松江城大手門前に立つ堀尾吉晴の像。彼の死は果たして娘の祟りだったのか…?
京極氏のあとに松平直政が城主になると、今度は天守の最上階に娘の亡霊が現われるようになり、直政をひどく悩ませたらしい。あるとき意を決した直政が「お前は何者だ!?」と聞いたところ、亡霊は「この城の主です」と答えた。そこで直政は一計を案じ「この城」と魚のコノシロをかけて、宍道湖で獲れたコノシロを供えたところ、亡霊はあらわれなくなったという。
松江城下で盆踊りが禁止された理由とは!?
さてこの娘の呪いとされる怪現象、これだけではない。城下で盆踊りがおこなわれると、必ず城が大地震のように鳴動するようになったという。そこで盆踊りを禁止するお触れが出され、それが現代でも一部で守られているのだ。
かの文豪・小泉八雲の『神々の國の首都』には、松江城に関して次のような記述がある。
「この城を築いたおりに、戰國時代の原始的な蠻風(ばんぷう)にしたがって、松江の一少女が、なにがしの神への人身御供となって、城壁の下に生き埋めにされたといわれる。その少女の名は傳わっていない。なんでも美しい娘で、踊りの大へん好きな子だったそうである。それ以外には、何も記憶されていない。
ところで、城が落成してから、松江の町では女の子は盆踊りをおどってはならぬという禁令を出さなければならなくなった。それは、盆おどりに女の子が踊ると、お城山がかならず搖いで、大きな城が礎から本丸のてっぺんまで搖れるからであった」
八雲は『神々の國の首都』の中で、人柱伝説以外にも松江に関する怪談や説話を紹介している(小泉八雲記念館提供)
八雲は英語教師として松江で暮らした時期がある。そのときにこの伝説を耳にし、書き記したのだろう。
冒頭で述べた“ある事情”とは、この悲しい人柱伝説である。いずれの怪現象も伝説の域を出ない。しかしいまだに松江市内の一部で“禁令”を守る習慣が残っているのは、犠牲になった娘を哀れむ気持ちと、故郷のシンボルである城を守りたいという松江の人々の強い思いが息づいている証なのかもしれない。
松江城へのアクセスをチェック!
松江城へは、JR松江駅からレイクラインバスで約10分、国宝松江城(大手前)下車、徒歩約1分。または、JR松江駅から一畑バス八雲線で約8分、国宝松江城県庁前下車、徒歩約5分。
※出雲大社からは、出雲大社前駅から一畑電車大社線・川跡行きで約11分、川跡駅下車、一畑電車北松江線・松江しんじ湖温泉行に乗り換え約56分、松江しんじ湖温泉駅下車、市営バス(北循環線内回り)で約5分、国宝松江城県庁前下車、徒歩約5分。
執筆/松本壮平
ライター・編集者。1972年、大分県中津市生まれ。慶應義塾大学文学部史学科日本史学専攻卒業。歴史、グルメほか多ジャンルで執筆。『食楽web』(徳間書店)にてからあげ食べ歩きコラム「から活日記」連載中。
写真/かみゆ歴史編集部
※歴史的事実や城郭情報などは、各市町村など、自治体や城郭が発信している情報(パンフレット、自治体のWEBサイト等)を参考にしています