超入門! お城セミナー 第23回【鑑賞】夏にお城に行くべきじゃないのはなんで?

初心者向けにお城の歴史・構造・鑑賞方法を、ゼロからわかりやすく解説する「超入門! お城セミナー」。もうすぐ待ちに待った夏休みですね! 今回は、安心安全に夏の城めぐりを楽しむためのアドバイス回。長期休暇に向けて城めぐりを計画している人、夏の城を甘く見てはいけませんよ!



暑さ、虫… 夏の山城には敵がいっぱい

夏到来! 長めのお休みもあるし、「さあ、城めぐりを計画しよう!」とはりきっている読者も多いのでは? 気持ちはよ〜く分かります。でも、ちょっと待って! 夏の山城めぐりは、あまりオススメできません。残念ながら、むしろ避けてもらいたい季節なのです。

高天神城、山城、静岡
遺構を探索したり攻め口を探ったり… 山城にはロマンがあふれているが、その分気をつけなければいけないことも多い(写真は高天神城(静岡県))

その理由は・・・ 城、特に山城は屋外施設であり、夏は自然界のもろもろが最も活動的になるからです。

まず心配なのは、「暑さ」。近年の猛暑・酷暑の中、炎天下を何時間も歩くのはきわめて危険です。特に山城目的の登山の場合、人の少ない山中で熱中症になって倒れてしまったり、携帯電話の電波が不安定だったりで、すぐに助けを求められないこともあります。たとえ連絡がついても、助けてくれる人が簡単に到着できないというリスクも。

「山の中なら木陰が多くて直射日光を防げるから、夏でも大丈夫でしょ?」と思うかもしれません。確かに、木々が生い茂る夏の山は、日蔭のない平地よりは直射日光を避けることができるでしょう。ところがこの生い茂った木々は、城の遺構を見る時の大敵。歩きにくい上に木々で視界が遮られるため、土塁や堀の高低差を見極めたり、遺構の規模を把握したりすることは至難のワザになります。山城に限らず、公園として桜の名所になっていることが多い平地の近世城郭でも、すき間なく植えられた木々の葉が茂ることによって石垣や天守・櫓などの建造物が満足に見えなくなってしまいます。あるはずのものが見えないって、かなりのストレスです。

次に、「虫」。ヤブ蚊はもちろんのこと、アブやブヨ、スズメバチやアシナガバチ、年々被害が増えるマダニ、ヤマビル、ムカデなどなど・・・最悪の場合、命に関わることもあります。そして「動物」も危険。クマ、イノシシ、サルなど、あちらも人間には遭遇したくないはずですが、彼らの生息域にお邪魔するのですから、バッタリ出会うことだってあります。

ヤブ蚊、虫
草が生い茂る山城には、ヤブ蚊など大量の虫が潜んでいる。山城に行く際は、季節に関係なく長袖長ズボンで防御していこう

このように、特に山城や土の城は、夏に行くにはたくさんのリスクがあるのです。このすべてに対策するとなると、こんどは服装や荷物が重装備になってわずらわしい上に、体力が持たないという事態を招いてしまうことも。

夏に行くなら近世城郭!

この季節に城めぐりをするのなら、平地や丘の上にある整備された近世城郭を選択しましょう。ただし敷地が広大なので、日焼け止め、帽子や日傘、ストールやタオル、そして多めの水分といった暑さ対策は万全に!もちろん近世城郭も、日常で出会う虫のリスクは避けられません。虫除け・虫さされ対策もしておくと安心ですね。

それでも、どう〜しても夏に山城に行きたいのなら、なるべく単独行動は避け、平地の城の場合の装備にプラスして、虫が寄りにくい白っぽい色で肌を露出しない服装(吸湿・速乾性の生地を取り入れると少しは快適に)、軍手などが必要になってきます。虫対策は種類によって違うので、行き先の生態系を調べておくことも大切。ヤマビルやマダニ対策には手首・足首を締めた方がいいですし、顔の周りにたかる虫を除けるための防虫ネット付きの帽子などもありますが、視界が狭まるので賛否あるようです。

以前の記事でも触れているように、山城めぐりに最も適しているのは、晩秋〜春(11月〜4月)。寒冷地の城は積雪の心配があるので真冬は危険ですが、冬枯れの山だと歩きやすく視界もききますし、虫や動物の活動も停止気味です。

村上城、初夏、竪堀、遺構
初夏に撮影した村上城。中央に竪堀が写っているのだが、草で覆われ全く見えなくなっている

竪堀、村上城、冬、遺構
冬に撮影した村上城の竪堀。上の写真と同じ遺構だが、草がなくなりはっきりと堀が見えている(村上市教育委員会提供)

完成したばかりの名古屋城本丸御殿、戊辰戦争150周年の会津若松城などなど、各地の近世城郭ではさまざまな事業が展開されています。また建物内の資料館、お堀めぐりの遊覧船、お城グッズや資料が手に入るお店があるなど、近世城郭のレジャー要素の多さは魅力。暑〜い夏は、無理のないお城に的を絞って、気楽で楽しいお城めぐりをオススメします!


執筆・写真/かみゆ
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。

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