マイお城Life 漫画家・黒川清作さん[後編]マンガを通じて城郭再建への関心を高めたい

泰平の象徴として築かれたものの、大火によって失われた江戸城天守を再建するビッグプロジェクトが始動−−! 2019年6月からビッグコミック(小学館)で連載開始、11月から第2部がスタートした『江戸城再建』。その作者・黒川清作さんの特別インタビューをお届けします! 後編では、城郭再建・復元に対する想いを中心にお話をうかがっていきましょう。



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『江戸城再建』第1話表紙より。東京と江戸が融合したような街にそびえる巨大天守という構図は、自然と思い浮かんだという

「失われた天守を見てみたい」という想いからすべてがはじまりました

約350年前に焼失した江戸城の天守再建を現代によみがえらせるというビッグプロジェクトを描く『江戸城再建』。前編に引き続き、作者の黒川清作さんと担当編集者の夏目さんに話を聞いていこう。

歴史マンガや時代マンガで城が登場することはよくあるが、城を建てる、それも復元をメインテーマにしたマンガは今作がはじめてだろう。誰も見たことがない江戸城を再建するという、前代未聞の企画はどのようにして生まれたのか。企画の発端を、まずは夏目さんにうかがった。

(夏目)この連載は、僕が新入社員の時から温めていた企画です。その頃、小学館本社ビルが改修中で、僕は竹橋の仮ビルに通勤していました。そのビルから東御苑を見ているときに、「なぜ天守がないのだろう?」と疑問を感じたんです。ここに江戸城の天守があったら、東京のシンボルとなる光景になるはずだと。調べていく内に技術的に再建が可能だということがわかり、連載マンガとして企画を練りはじめました。黒川さんとは何度かお仕事させていただくことがあって、連載以前から知り合いでした。当時、黒川さんは他社で歴史物を描かれていて、城や人物の表現力が群を抜いていました。そこで、ぜひ黒川さんにお願いしたいと思ったんです。

担当編集者、夏目さん、黒川さん
担当編集者・夏目さん(写真左)の疑問からはじまった『江戸城再建』。夏目さんは、連載開始後もストーリーの打ち合わせや監修の三浦先生との連絡など『江戸城再建』に深く関わっており、二人三脚で作品をつくり上げているといえる

(黒川)夏目さんから企画をいただいたときは素直に面白そうだと感じて、二つ返事で引き受けることにしました。その後、打ち合わせを重ねて物語の方向性や登場人物の造形などを具体化していきました。『江戸城再建』では、描写のリアルさだけでなく登場人物同士の人間ドラマも見どころです。第3話では、プロジェクトチームのメンバーがそろい踏みとなりました。今後、チームがどのようなドラマを繰り広げていくのか、注目していただければと思っています。

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キャラクターづくりで一番難航したのは、主人公の堀川だったそう。デベロッパーとしての有能さと城好きのアツさの両方を表現するため、いくつものキャラクター案がボツになったのだとか

『江戸城再建』は、現代の都市に城を建てるというコンセプトのため、歴史や城の知識のみならず建築の専門知識も必要でした。僕も夏目さんも物語にリアルさをもたせたいと考えていたため、城郭建築の専門家である三浦正幸先生に監修をお願いすることにしたんです。

(夏目)三浦先生には建物が正確に描かれているかはもちろん、各省庁との交渉で想定されるやりとりなど内容面でのアドバイスもいただき、密度の濃い内容に仕上げています。

(黒川)三浦先生は、絵の方でも「この飾りはもう少し小さい方が実物に近い」など、僕や夏目さんでは気づけないディテールまでこだわりをもって見てくださるので、いつも感謝しています。先生がいなかったら、このマンガはここまでリアルに描けなかったと思います。

黒川さん、江戸城天守台
これまでに入った三浦先生からの修正で最も大変だったのは、2話の江戸城天守台だそう。「石の形一つ一つに修正が入っていて、研究者のこだわりを感じました」と、黒川さんは当時を振り返る

マンガをきっかけに天守再建に対する議論が深まれば何よりです

『江戸城再建』第1話で堀川は、江戸城天守を再建するべき意義として、下記の4点をあげた。

1. 江戸城天守を中心に、日本の歴史・伝統・文化の再発見・再評価すること
2. 木造建築技術を将来に継承させること
3. 観光シンボルとして経済の成長戦略と結合すること
4. 新時代の公共事業を創出すること

現実でも江戸城天守の再建は幾度も議論されており、近年は外国人観光客の増加や東京オリンピック開催を受けて議論が活発化している。現実で江戸城天守が再建されることについて、黒川さんと夏目さんはどのように考えているのだろうか。

(夏目)『江戸城再建』は、僕と黒川さんの「失われた天守を見てみたい」という想いからはじまった連載なので、再建された天守を見てみたいとは思っています。一方で、僕たちは単に天守を建てるだけでは意味がないと考えています。

(黒川)江戸城が再建されればどのように東京が変わるのか、再建にあたってクリアしなければいけない問題は何なのか。これを周知し、どのような形で進めれば誰もが納得する再建ができるのかを国民一人一人が考えていかなければ再建する意味はないとも思っています。そのため、『江戸城再建』では天守を再建するメリットとデメリットや各省庁のスタンスをできうる限り正確に描き、より多くの人が天守の再建について考えるきっかけにしたいと考えています。

江戸城天守台
現存する江戸城天守台は、明暦の大火後に造られたもの。天守も再建される予定だったが、会津藩主・保科正之(ほしなまさゆき)の提言で建設中止となった

(夏目)江戸城は、失われた経緯や場所の特殊性から天守の再建には賛否両論あります。編集部にも「天守を見てみたい!」という肯定的な意見から、「堀川の意見は理解したけど、自分はやはり天守はいらないと思う」といった否定的な意見までさまざまな感想が届いています。

(黒川)SNS上でもマンガの感想と一緒に自分の意見を述べる人が増えていて、江戸城に関する関心が高まりつつあることを感じています。

再建議論を深めるためには天守再建に反対する人たちの意見も重要です。マンガ内の交渉シーンでも、反対意見をねじ伏せるような描写はしないように気をつけています。再建が可能だという根拠も再建が難しい理由も客観的に描きつつ、最後は堀川の城への想いに相手が共感し、「天守を見てみたい」という情熱に巻き込まれ、再建が進んでいく。「正確な事実」と「城が好きという熱意」の二つを軸に、江戸城天守への関心を高めていけば嬉しいですね。

黒川清作先生

『江戸城再建』が全国の城が活性化するきっかけになって欲しい

天守など城郭建築の再建・復元に関する議論は、江戸城以外の城でも起こっている。最後に、全国の城郭再建・復元に対する想いをお二人にうかがった。

(夏目)近年、戦後に復興・復元された天守では経年による劣化が問題となっています。しかし、現代には「建築基準法」がありますから、簡単に建て替えはできない。そうした問題を抱えた自治体が、このマンガを読んで「この考え方は、問題を解決するヒントになるかもしれない」と考えてくれたら嬉しいです。

名古屋城
耐震性の問題から建て替えが予定されている名古屋城(愛知県)。2018年5月に現天守が閉館し、現在木造化のための議論が行われている

(黒川)「城ブーム」によって、各地で城郭建築復元の機運も高まっています。ですが、単に地域のシンボルや観光資源が欲しいから天守を建てるのではなく、再建にどんな意義があるのかをさまざまな立場の人がともに議論し、何百年先まで残る新たな文化財として天守が造られる。『江戸城再建』がそのきっかけの一つになれば非常に嬉しく思います。


黒川清作
1981年生まれ、千葉県館山市出身。「ビッグコミック&オリジナル合同新作賞」で入選受賞後、「ビッグコミック増刊号」(小学館)にて読み切りの掲載を経て、2019年6月より「ビッグコミック」にて連載デビュー作となる『江戸城再建』の連載を開始。単行本第1集は2019年12月12日頃発売。


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 執筆・写真/かみゆ歴史編集部(滝沢弘康・小関裕香子)
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。

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