超入門! お城セミナー 超入門!お城セミナー 第15回 |【歴史】:城を造るにはどれくらい費用や期間がかかるの?

初心者向けにお城の歴史・構造・鑑賞方法から、お城の用語、訪れる時の服装や注意点まで、ゼロからわかりやすく解説する「超入門!お城セミナー」。今回は、一つの城が建つのにかかるあれこれを説明します。

城を建てるために必要な作業とは?

広大な敷地の中に、天守や御殿など立派な建築物が立ち並ぶ城。これまでの「お城セミナー」では城の役割や歴史について解説をしてきましたが、そもそも城はどのように築かれるのか皆さんご存知ですか? 何となく大勢の人をかり出して大規模な工事を行うことは想像できますが、具体的にどのような工程を踏むのか、どれくらいの時間と費用がかかるのか知っている人は少ないと思います。

今回はそんな知っているようで知らない、近世城郭ができるまでの工程や期間、費用について解説していきましょう。

まずは築城の工程から。最初に行われるのは設計図作りです。これをおろそかにすると欠陥だらけの城が出来上がりかねませんからとても重要な工程です。領主の城を築くなら交通の要衝を、支城を建てるなら敵との国境付近を…といった具合に、用途にあわせて土地を選ぶ「地選(ちせん)」を行い、「地取(じどり)」という作業で、地選で決めた土地のどの範囲にどれくらいの規模の城を建てるのかを決定します。そして、建物や堀、石垣などの配置や曲輪の形などを決定する「縄張」を行えば城の設計図が完成です。縄張の詳細については第6回をおさらいしてみてください。

設計計画が完成したらいよいよ工事開始。工事は「普請(ふしん)」と呼ばれる土木工事と「作事(さくじ)」という建築工事にわかれています。

「普請」では堀の掘削や曲輪の造成、石垣の積み上げが行われます。徳川家康が命じた天下普請では、複数の大名達が分担して普請にあたり、それらの大名達を統括する普請奉行が幕府から任命されました。普請の中でも石垣積みは一大イベントだったようで、巨大な石材の運搬では大名自ら音頭を取って現場を盛り上げることもあったそうです。城の普請というと「大名が領民を強制徴集して無給で働かせていたんじゃないの?」思う人もいるかもしれませんが、そんなことはありません。現場の人足たちにはきちんと米などで給料が払われていました。

「普請」が終わると天守や門などを建てる建築工事「作事」が始まります。作事には普請奉行とは別に作事奉行が任命され、左官や大工など専門の職人が雇われました。大名家ではこうした技術者を恒常的に家臣として抱えていたようで、家康の下で駿府城(静岡県)や江戸城(東京都)の建築物に携わった大工・中井正清は大名としての地位が与えられるほど厚遇されていたといいます。

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 現存天守を持つ備中松山城(岡山県)は、中世に在地領主の秋庭氏が地選を行ったため、近世城郭としては珍しく山上に建てられている(高梁市提供)

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大阪城(大阪府)南外堀は多数の大名が携わる大がかりな普請により、堀幅約70m、石垣の高さ(水面から)は約22mという全国屈指の規模を誇る

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池田輝政は姫路城(兵庫県)を大規模城郭へ改修するにあたり、天守をはじめとした大小80以上の建物を建てる作事を行った

天守や御殿など建物が全て出来上がれば、晴れて城の完成です。その後も拡張工事などが続けられることはありましたが、城主の多くは主要な建物が完成した段階で、新しい城に引っ越しました。

築城にかかる時間とお金

城を造るための工程は上記の通り。実際の城はどのくらいの期間をかけて造られたのでしょうか。

まずは、築城にかかる時間から見ていきましょう。「地選」や「縄張」の期間について記した資料はほとんど存在していないため、今回は「普請」と「作事」の事例をあげていきます。

織田信長が築いた近世城郭の嚆矢、安土城(滋賀県)の築城では、信長が家臣に命じて普請を開始した天正4年(1576)から約1年で普請の大部分が完了。そして、同年から天主の作事がはじまり、天正7年(1579)に信長が安土城天主に移り住んだという記録があるので、天主の建築には約2年かかったことになります。安土城からおよそ40年後に造られた名古屋城(愛知県)の築城期間は普請に約1年、天守造営で約2年でした。大規模に人員を動かせる大名家の築城にかかる期間は約3年が一般的と考えてよいでしょう。

短期間で城を築いた例としては、豊臣秀吉の肥前名護屋城(佐賀県)があります。朝鮮出兵の前線基地とするために造られたこの城は、秀吉が築城を命じてからわずか8カ月で主要部が完成するという驚異のスピードで完成しました。「そんな突貫工事で造られた城だったら、掘立小屋とかしかない貧弱な城なんじゃないの?」と思う方もいるかもしれません。しかし、肥前名護屋城は五重の天守を持つ大城郭で、朝鮮出兵中には日本の政治の中心となるほどの一大都市にまで発展します。これほどの城をわずかな期間で造ってしまうとは、さすがは天下人です。

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 安土城天主は本能寺の変後に焼失してしまったため、現在は天守台のみが残されている

費用の方はどれくらいかかっていたのでしょうか。城の総工費について記された資料はほとんど例がありませんが、幕末に海防のため築城を許された松前城(北海道)では総工費が15万両かかったという記録が残されています。これは、現在のお金に換算すると約60億円というとんでもない金額。借金に苦しんでいた幕末の大名には厳しい額だったようで、築城主である松前藩は城下に献金を求めて何とかこの額を捻出したようです。一国一城令以降、築城は幕府の許可を得ないとできませんでしたが、中には許可をもらっても工費を捻出することができず、泣く泣く築城を諦めた大名も少なくなかったのだとか。

莫大な時間とお金をかけて造られた城。多くの人の知恵と労働力が費やされたことを知った上で見ると、知っている城でも新たな発見があるかもしれません。見る角度によって全く違う姿になるのも城の魅力の一つですね。

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 松前城天守は戦前国宝に指定されていたが、戦後すぐの火災により焼失。現在の天守は、1961年に外観復元されたものである

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執筆・写真/かみゆ歴史編集部
「歴史はエンタテインメント!」をモットーに、ポップな媒体から専門書まで編集制作を手がける歴史コンテンツメーカー。手がける主なジャンルは日本史、世界史、美術史、宗教・神話、観光ガイドなど歴史全般。主な城関連の編集制作物に『日本の山城100名城』『超入門「山城」の見方・歩き方』(ともに洋泉社)、『よくわかる日本の城 日本城郭検定公式参考書』『完全詳解 山城ガイド』(ともに学研プラス)、『戦国最強の城』(プレジデント社)、『カラー図解 城の攻め方・つくり方』(宝島社)、「廃城をゆく」シリーズ(イカロス出版)など。

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